どうなる?SAJ

 SAJは北野貴裕会長と皆川賢太郎専務理事(競技本部長)の理事再任を否決したとのこと。

 任期(2年)満了に伴う改選で過半数の信任を得られなかったのだから、通常の手続きによる民主的な結果であるのだが、「会長派=改革派」vs「反会長派=保守派」の勢力争いのにおいがぷんぷんすると感じるのは、内情を全く知らない部外者のうがった見方に過ぎないだろうか。

 ここ数年、特に2017年に皆川氏が競技本部長になって以降、あれこれと新しいことを始めていたのは確か。現状に危機感が強い皆川氏が推し進める改革を北野会長がバックアップしていた印象だったが、「北野氏は運営手法が強引だとして一部で反発を受けていた」という報道もあり、知名度のある皆川氏が広告塔になっているが改革の主導権はあくまで北野会長が握っていたのかもしれない。

 「当然の結果。強化費不足のクレームは絶えず、カネの使い方がおかしいと呆れています」という”関係者”の言葉を引用した記事もあるが、まったくの捏造ではないにしても、この”関係者”のただの主観のように思える。記事の出し手は、食いつきのいい刺激的な見出しで煽れればいいだけだろう。

 これに対しては皆川氏が自身のFacebookで「しっかり事実と戦略等を取材し、裏を取ってから公共の場に流して頂きたい」と反論しているし、「代替案なき今回の欲望に満ちた改選判断が何を生むのか?」とやるかたない憤懣と行く末に対する危機感を吐露しています。

 歴史ある団体というのは既得権益層が強く保守的なのが通常だろうし、競技団体も例に漏れず、旧態依然とした体質が報道される機会が近年増えている。日本のスポーツ行政を管轄する文科省が、そもそも非常に保守的なイメージがある。

 スポーツ競技全般について、日本では「体育」という「教育の一環」から発展した経緯が強く、人格的な育成には良い面もあろうが、このためにスポーツで稼ぐことに否定的な空気が強く、それによって興行を通じた普及やトップクラスの選手育成・競技強化で世界に後れを取っている、とはよく言われることかと思う。

 国も体育重視からスポーツの普及・発展を目指して、東京オリンピックが決まったことも後押しして「スポーツ庁」を設立したのだろう。

 皆川氏のここ数年の発言からも、まさにこの部分への危機感が強く感じられ、競技団体自らか興行化を主導することで自主財源を増やし、それによって世界で戦える選手を増やす、というビジョンを語っていた。

 長年ノルディックスキーを後押ししている北野建設㈱のトップである北野貴裕氏も、強化方針に改革の必要性を強く感じていたのではないかとは想像に難くない。

 今回再任されなかった理事には、星野リゾート代表の星野佳路氏も含まれるということで、宿泊業界の改革派である星野氏も、SAJにマーケティング発想を取り入れて収益化を図ろうという皆川氏の方策には賛同していたであろうし、あるいは参謀・知恵袋として大きな役割を担っていたのかもしれない。

 変革というのは短期間に一気呵成に進めるのが成功の常道だろうし、意思決定機関の全員が同じ考えということはまずない(それはそれで不健全)ので、ある程度の強引さがないと進められないだろう。

 考え方や方向性がいくら合理的で正しいであろうとしても、急激な変化に気持ちがついていけず不安を抱える人の方が多いのが世の常。「強力なリーダーシップ」と「運営手法が強引」は表裏一体で、急激な変化を快く思わない保守派をうまくまとめあげられなかったということ。

 実際のところ、どういったところが「強引」と評されたのかは分からない。皆川氏のアルペン強化の方向性が我田引水ととられたのか、あるいは競技強化の方向性が教育本部閥の反感を買ったのか、興行化・収益化を嫌うアマチュアリズム主義者が多いのか。

 方向性はいいがスピードが速すぎる、などという理由で25人中7人が否認される(全員が同じ理由とは限らないが)ということもないだろうから、ここ数年で始めたことが継続されずに元に戻る可能性もないとはいえない。

 それとも、会長派が改革を口実に利権を集中させていたということなら、運営体制を再編するだけで方向性は継続されるかもしれない。

 強化にお金が必要なのは間違いないし、そのために自主財源を増やすこと、ある程度はリスクを負ってでも興行化・収益化を進めることは、競技の強化や種目の普及・発展のために避けて通れないのではないかと思う。

 SAJには立ち止まることなくチャレンジを続けてほしいし、皆川氏にはSAJを離れてもスノードームの実現を諦めないでほしい。