Mt.乗鞍売却検討報道に思う

 「乗鞍スノーリゾート売却検討」という記事が出て、運営会社が「今後の方針について」をホームページに掲載している。

 「地元のりくら観光協会松本市、長野県、環境省の方々と協力しながら、最後までお客様をお迎えする体制をとっていきたいと思っております。」

 一見「頑張ります」宣言のようにも見えるが、「最後」とはいつのことか。破産手続きの開始を宣告すれば、そこが運営会社の「最後」だろう。親会社100%出資の運営会社を清算することに法的な問題はなく、明日宣告するかもしれない。

 「観光協会、市、県、環境省と協力しながら」というのは、これらの地元や自治体・政府の援助がなければ立ち行かずに「最後」になります、というある種の脅しのようにも読める。

 当初の運営は松本市出資の第3セクターだったが、2011年9月に債務超過清算。借入金約14億円を切り離し、新たな事業継続会社として「のりくら総合リゾートサービス」を設立し、ここにマックアースが資本金1000万円の全額を出資することで、実質的な運営はマックアースとなった。

 この年は震災以降は閑古鳥が鳴いてシーズンを終えたので、それで見切りをつけたのかもしれない。しかしこの後、震災をきっかけにレジャー消費が盛り上がり(モノの購入より体験価値重視)、しばらくは降雪にも恵まれてスキー客数は4年ほど下げ止まりから微増の様相をみせることになる。

 このタイミングで急拡大したのがマックアースで、この2011/12シーズンは乗鞍のほかに北志賀よませ、ユートピアサイオト、2012年2月には現在も経営の屋台骨であろう、高鷲スノーパーク・ダイナランド・ひるがの高原の経営権も取得している。

 マックアースの拡大は2015年まで続くが、2015/16シーズンの記録的雪不足で拡大は止まり、16/17シーズンも前年ほどではないにしても雪に恵まれなかったことで、休業・売却・指定管理の解除などが増えていく。その「マックアース大放出」のピークが2018年で、乗鞍もここで手放している。

 この年は、箕輪・乗鞍・さのさか・エコーバレー(とヤナバ)を太陽光発電事業などを手掛けるブルーキャピタルに、チャオ御岳を旅館プロデュースなどを手掛ける優福屋に売却(譲渡)し、おんたけ2240の指定管理者をゴルフ場経営などを手掛けるアンカーにバトンタッチしている。

 スキー業界が斜陽化して20年以上。一部のアクセスのよいところや外国人観光客に人気のところは賑わっているが、圧倒的多数のそれ以外のスキー場はずっと青息吐息。右肩下がりのスキー客数がほっと一息ついたタイミングで急拡大したマックアースも、ある程度のコスト削減ノウハウはあって平常時の延命はできたとしても、よくてギリギリ黒字であろう中小規模スキー場に継続的に設備投資していくほどの資金力はなく、抜本的な再生はできなかった。

 そのマックアースが匙を投げた案件を、スキー場運営は初めての異業種が買う。捨てる神あれば拾う神あり、とも言えるし、異業種だからこそ見える勝ち筋ややり方というのもあるのかとも思ったが、タダ同然の出物によく考えもせずに飛びついたのでなければいいがと懸念もした。

 結果は、優福屋はチャオを5月に買って、夏営業をしただけで運営放棄と最悪の状況。ブルーキャピタルは、さのさかのセンターハウスやホテルに設備投資するなど前向きだったが、雪不足に加えてコロナ禍で瀕死といった感じ。

 コロナ禍の2020/21シーズン、さのさかは地元の協力(おそらくは冬期従業員のコロナ対応宿泊場所の確保)を得て営業したが、エコーバレーは休業したうえで来季以降も数年間は営業しない可能性を示す(地元には「その後は必ず営業する」と説明したそうだが)など引き気味で、乗鞍は営業はしたが売却を検討となった。

 乗鞍の客数(3月末まで)は、2012年の7.8万人のあと、8.5万、8.6万、7.5万、8.6万、8.8万と推移したところでマックアースが手放し、7.5万、6.6万、そして今シーズンは4.8万人となっている。ここ2シーズンは、2015/16シーズンを超える雪不足にコロナ禍と想定外だっただろうが、買収1年目から雪不足の2015/16並みのおそらく過去最低なのは、宣伝力や共通シーズン券の有無という「マックアースとの差」か。

 どういう戦略と見通しを描いていたのかは分からないが、結局はそもそもの見通しが甘かったのではないかと思わざるを得ない。(一方で、マックアースの見切り時は正しく、都合よく買い手が現れてくれて助かったといえそう)

 とはいえ実際問題、運営会社の努力だけで何とかなる状況ではないだろう。地元や自治体はどう考えていて、どれだけの覚悟があるのか。公費で支えるにしても限界はあり、大規模更新の費用は出せないとなると、いずれは設備寿命とともに諦めざるを得なくなる。

 地域外からの集客の少ないローカルゲレンデは、特に町村合併によってローカルゲレンデを複数抱えることになった自治体では、閉鎖や集約に進んでいるところがほとんど。

 潰すにはあまりに影響の大きいところ、例えば王滝村などは、おんたけ2240がなければ村が成り立たないとばかりに支え続けているが、そんなところは稀だし、指定管理を10年契約したアンカー(運営は子会社の王滝ツーリズム)だって、ここまでの3シーズンは迷走状態で冬も冬以外も目立った成果は見られず、いつまで続けられるかは分からない(親会社が赤字補填し続けられるほど儲かっていれば別だが)。

 「スキー場がないと食べていけない」という地元の有無という点では、チャオ御岳は地元がないだけまだ諦めやすく、そういった地元を抱えるおんたけ2240やMt.乗鞍は「重い」と言えそう。

 松本市在住なら、距離と規模感においてMt.乗鞍は野麦峠と並んで有力な候補となり得るが、もう十数kmで白馬に行けることを考えると微妙。選ばれる理由は「空いてるから」になりそう。それも松本市在住ならであり、遠方からの宿泊客の需要はすでにほとんどないのではないか。

 それでも雪に覆われる冬場に数万人の来客があるかないかが地元にとって大きいのは間違いないが、松本市にとってMt.乗鞍が財政援助するほど重要かどうか。結局は、スキー場を維持することで得られる便益がいくらで、スキー場を維持するために地元が負担可能なコストがいくらかということになるだろう。

 来シーズンを迎えられずに終わるということはなかったとしても、先行きは相当に厳しそうだ。