高速道路のETC専用化

 昨年7月に国交省が高速道路のETC専用化方針を打ち出したときはそれなりにニュースになった記憶があるが、その後、12月にその実現に向けたロードマップが出ていた。

 これに対して最近になって「実はデメリットのほうが多い?なぜ高速道路のETC専用化を進めるのか」というネット記事がでていた。

 記事は、専用化してもユーザーにメリットがないばかりか、料金所の人件費コストは年間料金収入の1%ほどであるうえトラブル対応のための係員が必要なため無人化できるわけではないことから高速道路会社側にも大きなメリットがあるとは思えないとし、「目的もあいまいで、専用化実現への道のりは遠い」としている。

 国交省は、

 ETCを活用することにより、

 1. 戦略的な料金体系の導入が容易になること等を通じた混雑の緩和など利用者の生産性の向上
 2. 将来的な管理コストの削減
 3. 高速道路内外の各種支払における利用者利便性の向上
 4. 料金収受員の人員確保が困難な中での持続可能な料金所機能を維持
 5. 料金収受員や利用者に対する感染症リスクの軽減

 等に資することから、ETC専用化等による料金所のキャッシュレス化・タッチレス化を推進

としているが、記者はそれぞれに

 1. 時間帯別料金は、非ETC車からは上限額を取ればいい(首都高はそうなっている)
 2. 非ETC車の誤侵入対策にコストがかかる
 3. 意味不明
 4. 料金所収受員の多くがシルバー人材であり、高齢者人口の増加を考えると人員不足は考えにくい
 5. 5年後、10年後も新型コロナが問題になっているとは思えない

と否定している。

 1.については記者の主張に納得感がある。

 2.については、どういう管理コストがどれだけ削減できるのかの国交省の見通しを聞かないことには何とも言えない。この記者の試算では人件費は年間料金収入の1%にも満たないので、料金を値下げできる額ではないが、企業にとっては利益率が1ポイント向上することは小さくない。

 3.はETCシステムを使った支払い機能の利用のことだと思われる。民間の駐車場などでも使えるようにという設計で作られているが、そのために車載機価格が高くなったうえに、導入コストも高いようでまったくと言っていいほど普及していない。

 国交省としては、「高速道路のETC専用化」→「ETCの普及」→「支払いのETC利用の普及」という理屈なのかもしれないが、すでに93%の高速道路のETC利用率が100%になったところで、それで支払いシステムが普及すると考えているならどうかしている。この記者は単に思考を停止してしまっている可能性が高そうだが、「意味不明」はある意味正しい。

 この記者は、ETC専用化により、現在ETCを利用していない残り7%の収入を失うと書いていて、その考えもどうかと思うが、その7%全員が車載機を搭載して普及が進むわけでもないだろうから、国交省の3.の理屈はますます破綻に近づく。

 4.は、確かに高齢者人口はまだ増えるが、それも団塊ジュニアが高齢者となる20年後まで。それ以後は高齢者も減っていくし、それ以前に労働年齢人口の減少の影響で慢性的な人手不足時代になっているかもしれない(それで人件費が上昇して、物価上昇になれば、国家経済的には悪くない)。

 また、料金所収受員の雇用条件は再雇用制度はあるが63歳定年制ということで、実際にシルバー人材の割合がどの程度なのかを調べたうえで「多くがシルバー人材」と言っているのか疑問が残る。

 5.は、温暖化とも関連して、今後こういった感染症の世界的流行が増加するという考えもあり、5年後、10年後には別の新型コロナが問題になっていることも考える必要がありそう。

 記者は「目的もあいまいで、専用化実現への道のりは遠い」としているが、目的は不適切なものもあるがあいまいではないし、こうして「都市部では5年以内、地方部で10年以内」というロードマップが出ている時点で、よほど激しい反対運動でも起こらない限り、実現に向けて粛々と進んでいくだろう。

 目的は明示されているが、どれも決定力に欠けるとは思う。料金所渋滞の解消・緩和という最大のメリットは既に広く享受されており、専用化したところでさらなるメリットはないと思う。

 個人的には、専用化されてもメリットはないが、ETC利用をやめる予定もないのでデメリットもない。そういう意味では、専用化してもしなくてもどちらでもいいのだが、残り7%をなくしにいく必要が本当にあるのか、現状の何がそんな不都合なのか、というモヤモヤはある。何か別の魂胆があるのではないかと疑いたくもなる。

 国交省はETC専用化等の導入・拡大に向けた検討事項として、「車載機購入助成」や「ETCパーソナルカードのデポジットの下限の引き下げ」を挙げているが、助成はまた一時的(恒久化して公費を投じ続けるのもどうかと思うが)だろうし、それでもセットアップ込みだと1万円程度の出費になるだろう。デポジット下限額が2万円から3千円になったところで、カード取得の手間を含めて使い勝手はよくない。

 国交省の資料を改めて読むと、「ETC専用化等による料金所のキャッシュレス化・タッチレス化を推進」とある。文字通り読めば、目的は「料金所のキャッシュレス化・タッチレス化」の推進であって、ETC専用化はその手段の一つにすぎない。(というか、ETC専用化すればキャッシュレス化・タッチレス化は完了なので、「専用化等」の「等」が何かは不明で、そういう役人的表現が「ウラに何かあるのではないか」という疑念を抱かせる)

 であれば、ETC専用化せずとも、非ETCは料金を割り増し(上記の記事によるとETCと非ETCの管理コスト差は1回100円程度というからその程度)にしたうえで支払い方法から現金をなくしてキャッシュレス決済だけにする、suicaや各種電子マネーQRコード決済も使えるようにしてタッチレス化を進める方がユーザーメリットがあると思うのだが、どうだろう。