索道輸送人数からスキー人口を推計する

 「スキー(・スノボ)人口」というと、レジャー白書の数値を引用されていることがほとんどである。「ピーク時は1800万人以上もいたのが今では3分の1以下」といった記述をよく見かける。

 レジャー白書は1977年の発行から毎年継続的に調査を続けており、「あるレジャーについてどれくらいの実施者がいるか」についての代表的なデータであることは間違いない。

 しかし、レジャー白書の調査は全国で3300人ほどのサンプルによるもので、「昨年、そのレジャーを実施したか」に「はい」と答えた人の割合(実施率)を、調査対象年齢である15~79歳の人口に乗じて参加人口を算出している。長期傾向をみるには統計学的に一定の信頼性があるのだろうが、毎年の数値そのものの誤差はそれなりにある。

 レジャー白書とは別に、直接的な実施人口ではないがスノースポーツの実施状況推移の指標としてよく用いられるものに、索道輸送人数がある。これは政府統計であり正確(リフトの場合は手動カウントによる誤差はあるにしても)。ここからスキー人口を推計してみたい。

 必要なのは「スキー場でスキー場営業期間中に滑走目的で輸送された人数」。これを「滑走目的客が1日に索道を利用する平均回数」で割れば、延べスキー人口が算出され、さらに「スキー実施者のシーズン平均滑走日数」で割れば実スキー人口が算出される。

 滑走目的かどうかはもちろんデータ上区分はされていないが、大まかな推論をしてみる。

 索道輸送人数データは、普通索道(ゴンドラ・ロープウェイ)と特殊索道(リフト)の各種別ごとに月別の値がでている。

 普通索道については、ここ数年の平均値では、冬期(12月~3月)合計が約2600万人。冬期以外で最多は8月の400万弱で、最少が6月の約170万人。冬期以外は大半が山岳観光・登山目的と思われる。冬期にもそうした利用者はいるが、冬期の滑走目的以外の客数は6月の客数より格段(半数以下?)に少ないと考えられ、冬期は9割前後は滑走目的であろうと推定する。

 4月(300万弱)の滑走以外目的客も6月より少ないのではないか。そうなると150~200万が滑走目的となる。5月(約300万)と11月(300万弱)は6月以上の滑走以外目的客がいるとしても、50~100万程度の滑走目的客がいることになる。

 となると、「冬期(12月~3月)の滑走目的以外の客数」が全体の1割とすると約260万人で、「4・5・11月の滑走目的客数」は300万人前後と、近似した値となる。つまり、「普通索道の滑走目的客数」は「冬期(12月~3月)の普通索道輸送人数」で代替できる範囲と考えられる。

 特殊索道については、冬期(12月~3月;約2.55億人)はほぼ滑走目的と考えていいだろう。4・5・11月の滑走目的客数がどれくらいか(厳密には10月のイエティや6月の月山もある)。

 6月~10月の平均(約140万)と同等の滑走以外目的客が4・5・11月にもいるとすろと、4・5・11月の計約1250万人のうち約830万人が滑走目的客となる。12月~3月にも滑走以外目的客が月140万人(計560万人)いるとすると、差引270万人となって冬期輸送人数との差は1%となる。特殊索道についても、冬期輸送人数がほぼ通年での滑走目的人数としていいだろう(実際は1~3%多い可能性が高い)。

 これらから、「滑走目的索道輸送人数」は「冬期(12月~3月)の索道輸送人数」と同程度であると推定できる。

 さらにいうと、過去のデータでは「冬期(12月~3月)の索道輸送人数」と「通年の特殊索道輸送人数」がほぼ同数(1981年度以降のデータがあるが±3%を超えたのは上下ともに各2回だけ)であることから、「滑走目的索道輸送人数」≒「通年の特殊索道輸送人数」でもある。

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 「滑走目的客が1日に索道を利用する平均回数」は、各県の「通年の特殊索道輸送人数」(≒滑走目的索道輸送人数)を、一部の県が公表しているスキー客数で割ることで推計できる。

 1日の索道利用平均回数は、県によって5回台(岩手県)から10回台(長野県)と、各県のスキー客数カウントの精度が疑われるほどにバラツキが大きいが、それらのデータからはおよそ9.0~9.5程度と見込まれる。これにより、延べスキー人口はピーク時で8400~8800万人、近年は2600~3300万人と推計される。

 「スキー実施者のシーズン平均滑走日数」は、レジャー白書の実施回数データを引用する。サンプル調査であることから毎年の変動が大きいが、10年単位程度で平均するとスキーバブル期も近年も5回強程度で大きく変わらない。これから、実スキー人口はピーク時で1600~1700万人、近年で500~650万人という推計になる。

 レジャー白書のスキー(・スノボ)人口は、ピーク時の6年間の平均が1723万人なので、平均リフト回数が9回、平均滑走日数が5日の場合の値とほぼ等しい。近年の600万人前後という値も同様。

 この結果からは、スキーバブル期も今もスキーヤー(・スノーボーダー)1人あたり年45回リフトに乗ること、レジャー白書のスキー(・スノボ)人口は(思ったよりも)概ね正確で索道輸送人数データと整合することになる。

 が、実際は、1人年45回で整合するのはスキーバブル期と直近だけで、バブル期以前やバブル期と直近の間は大きく異なっていてスキー人口と索道輸送人数が整合しない。言い換えれば、レジャー白書のスキー人口と索道輸送人数が整合するには、人・年あたりリフト回数が大きく変化していることになる。

 この整合しない(=人・年あたりリフト回数が変化する)状況とその要因については改めて考察したい。