東洋経済オンラインが、”スクープ!「スキー連盟クーデター騒ぎ」の真相 選任否決された皆川賢太郎・競技本部長が独白”というインタビュー記事を掲載した。
いくらかは皆川氏が自身のFacebookに書いていたし、否認を投じた側への取材は行われたのか不明で(「~という声」という形でインタビュアーが投げかけてはいる)、一方当事者への独占インタビューをもって「スクープ!」という見出しを付けるのは、ゴシップ紙ならともかく経済誌としてはいかがなものかと思うし、「クーデター騒ぎ」という表現も決して過剰とは思わないもののいささか扇情的に過ぎる印象もある。
経済誌だからこそ、マーケティング発想を取り入れて合理性重視の運営へと組織変革に取り組んでいた皆川氏にシンパシーを感じているのだろうとか、否決派には取材を申し込んだところで拒否されるか通り一遍の回答しか返ってこないのだろうとかは容易に想像できるが、「真相」と銘打つからには一方当事者の話だけでなく双方に取材して中立的な記事にしてほしかった。
それに、インタビューに答えているのだから「独白」ではないと思う。
インタビュー冒頭で否決された理由について皆川氏が「正直なところ私にも真相はわからない」と答えているのにタイトルを「~の真相」とするのも何だかなあ。
記事は、前半が皆川氏の就任の経緯、行ってきた改革、それによる成果の紹介と皆川氏にとってのポジティブな話、後半がまだ成果の上がっていない事項、否決理由とされている「声」への弁明(訂正)という構成になっている。
否決理由として挙げられているのは以下の4点。
否決理由1:会員登録のIT化によって会員数が減った
否決理由2:評議員の定数を削減しようとしている
否決理由3:ものごとの進め方が独断的・強権的
否決理由4:地方の声が反映されない、地方が切り捨てられている
理由1について皆川氏は、業務削減も目的の一つであり一定の評価を得ていた、一時的な会員減は想定しており、効率的なシステム構築が会員離れに歯止めをかけることにつながると思っている、大手IT企業との連携でライトユーザーや休眠層に認知してもらって新規会員の増加につながると考えている、と答えている。
なぜ会員登録をIT化すると会員が減るという前提なのかがよく分からない。1級合格時やプライズ受検時の暫定登録は今まで通りだろうし、他は基本的にクラブなどの団体を通じてだから、IT化と脱退がどう関係するのか。登録のIT化を口実にクラブを辞めるなんてことがあるだろうか?
それまではクラブで取りまとめていた登録を個人任せにすることで、登録せずに退会となる人がいるだろうということか。それはIT化というよりクラブ側の問題だろうし、退会を言い出せなかった幽霊会員がいなくなることは、運営実態の把握という点ではむしろ健全だと思うが。
「効率的なシステム構築が会員離れに歯止めをかける」も因果関係がちょっとよく分からない。会員登録が面倒くさいことが理由で退会する人が相当程度いるならともかく、システムの効率化が会員のつなぎ止めに寄与することはないのではないか。
「新規会員の増加につながる」は、クラブを通じない個人会員の新規獲得ということなら、IT化で入会登録手続きが簡単になるのはプラスに寄与するだろう。
だが何といっても「事務作業の合理化による経費削減」が、IT化(今風に言うならDX=デジタル・トランスフォーメーション)の最大の目的にしてメリットなのではないのだろうか。
それを「目的の一つ」と表現するのは、控えめと言うより別の忖度の力学を感じてしまう。これによって職を失った人が相当数いたりするのだろうか。
理由2(評議員定数の削減)については、情報がゆがんで伝わっているので訂正しておきたい、とはっきり否定している。国の定めるガバナンスコードに照らして、外部有識者や女性比率についての議論を呼びかけたことがなぜか「定員を削減しようとしている」とゆがんで一人歩きしたとのこと。
これは、変化についていけない側の被害妄想が強くなってそうなることもあれば、反対派が意図的に情報工作した可能性もありそう。
情報工作があったとしたら、裏で不安を煽って世論を形成するといった政治的な動きに改革派が無頓着すぎたのか、守旧派が一枚上手だったということか。
理由3(独断的・強権的)については、改革には進路を指し示す必要があり、信念を持って進めてきたと、そう受け取られても仕方がないが必要なことという考えを示している。
これは変革にはつきもので、だからこそ丁寧にコミュニケーションを取って不安を取り除かなければいけないのだが、そこに気付けなかったのか、できてたつもりで足りてなかったのか。
理由4(地方軽視)については、改革の優先順位としてまずは中央団体の立て直し、財政が安定したところで次に地方と考えていたがその趣旨が伝わらなかったと答えている。
このあたりは、趣旨は伝わっていても信用しきれなかったのかもしれない。もしかすると「中央で利権を独占するつもりだ」という陰謀論を吹聴するような組織的活動があったのかもしれない。
皆川氏は「評議員の中に、これまで北野体制でやってきたことを知っているのに、真実とはまったく違う情報を流している方がいる」と述べており、最も訴えたいのはこれだろう。上記のような妨害工作が実際に行われていたと。
それも含めて結局のところ、
インタビュアー「改革の趣旨を説明し、理解してもらう努力が足りなかったのでは?」
皆川氏「そうかもしれません」
ということになるのだろう。
実際には、理解するつもりがないというかただただ反対という人もいるだろうから、変革によって既得権益を侵されるなどで反対する人達による妨害工作に対処しきれなかった、といったところだろうか。
熱血改革派が老獪な守旧派の情報操作により失脚させられた、とまとめてしまうのはあまりに安直な気もするが、要はよくあるそういうことのように映る。
記事タイトルの「クーデター騒ぎの真相」とはつまり、「反対派により情報操作が行われた」ということなのか。
皆川氏の考えは合理的だし、発信力や行動力があって期待していたので、個人的には非常に残念だが、重要なのは誰が旗を振るかではなく、どこに向かって実際に何をするかなので、行動を維持するにしろ方針転換するにしろ、粛々と新たな会長と理事を決めて、早期に所信表明することで競技強化の現場の不安を払拭してほしい。
そして、競技強化(競技本部)と普及促進(教育本部)の両輪がガッチリとかみ合って力強く進む姿を見せてほしい。