リニア中央新幹線

 JR東海が中央リニア新幹線の開業時期の延期を発表しました。静岡県が着工不許可としてから7年、今さらの発表です。JR東海は新たな開業予定時期を示していませんが、静岡工区の着工遅れがそのまま反映されて2034年以降になると考えられています。

 延期発表に合わせるように他の工区での進捗遅れも発表したことで、「JR東海は延期はすべて静岡のせいかのようにしているが、静岡工区以外にも問題山積であり、静岡を隠れ蓑にしているだけ」といった記事もありました。

 大規模インフラ建設の開業予定は、何も問題がなくすべて順調に進んだ場合の最速を示すのが一般的で遅れが生じることは珍しくなく、そういった指摘は批判派がここぞとばかりに書き立てているだけと感じます。

 が、静岡工区の着工延期から3年経った2020年に「工期短縮で今ならまだ2027年に間に合う」とJR東海が言っていたことは、駆け引きの材料だとしても無理筋だったと思われ、もっと早くに開業時期延期を発表していれば、他の工区の遅れについて隠れ蓑批判されることもなかっただろうにとも思います。

 東海道新幹線は輸送量的に限界ですし、米原付近での雪に対する耐性は昔に比べて(小雪化傾向もあって)随分と高くなったものの、近年は激甚化する豪雨災害への脆弱性が目立っており、バイパスとなる中央新幹線の必要性は高いと思います。災害時のバイパスというだけなら北陸新幹線の全線開通もバイパスになりますが、平時の輸送量や利便性という点では、高速道路網において上信越道北陸道ルートが東名・名神のバックアップとしては遠回りすぎるように、高速鉄道にも中央道ルートがほしいところです。

 「中央新幹線を作るにしてもリニアである必要はない」という意見には、それはそうかもと思わなくもありませんが、その理由に、リニアでは乗客1人輸送あたりのエネルギー消費量が従来新幹線の3倍になるというエネルギー効率の悪さを挙げられることについては、リニアは所要時間的にも航空機と従来新幹線の中間に位置づけられるものであり、リニアの乗客1人輸送あたりのCO2排出量は航空機の1/3であることからすると、航空機の代替としても考えるべきではないかと思います。実際に東京-大阪間開通となるとその区間の航空機需要はなくなるのではないかと思われます。

 それでも、中央新幹線JR東日本が開発しているような最高営業運転速度360㎞/hの車両を使えば、現在は2h15~20の品川-新大阪の所要時間が1h40以下になると思われ、リニアの1h07に対して1.5倍近いとはいえ差が30分強程度なると、リニア不要論にも理を感じるところです。

 反対派の知事が辞任したからといって静岡工区に着工できるかは分からず、2034年の開通も見通せません。JR東海としても、コロナ禍で資金調達にも需要動向にも変化が生じたことで無理に急ぎはしないという事情があるのかもしれないなどと思ったりもします。資材費の高騰や工事人員の手配の問題もありそうです。

 大阪までの開通は、名古屋までの営業開始時期に関わらず工事を始めれば、こちらは予定どおり2037年の開業も可能かもしれませんが、JR東海は資金調達の関係からもともと2045年開業予定としていたのを、国が「金なら低利で貸すから早く作れ」と言って2037年になった経緯があるので、JR東海としてはそちらも7年遅れになっても当初予定の2045年より早ければ十分、くらいに考えているのかもしれません。

 西九州新幹線新鳥栖-武雄温泉間もまったく進展する様子がなく、ここはフル規格だと着工から開通まで12年の見込みということなので早くて2030年台後半となり、これで先日の北陸新幹線敦賀延伸の次の高速鉄道開通は、北海道新幹線の札幌延伸にしてもリニアの名古屋開通にしても、今から10年後の2030年代半ばということになりそうです。これまでで最も長い間隔となります。

 上記3つの次は、2040年代半ばの中央リニア大阪延伸と北陸新幹線大阪延伸となり、計画が進んでいるのは今のところそこまでとなります。四国新幹線など、各地元は計画推進を掲げていますが、人口減少の本格化もあってさすがにこれ以上はもうないのではないかと思われます。