日本のスキー場は供給過多?(ではない)

 日本のスノーリゾートの発展を目指す資本家的な立場の人からは、日本のスキー場は供給過多であり、それが発展の障害になっている旨の発言がされることが多いように思います。

A氏「市町村が管理するスキー場を変えていくことが大事。本来潰れるべきスキー場がさまざまな方法で温存され、供給過剰が続いているからリフト券の価格は安いままで、スキー場が儲からず設備投資もできないという状況は日本のスキー産業を弱体化させる」

B氏「スキー人口の減少ほどスキー場は減らず、経営者は安売りに走り、顧客満足度は低下。スキー場がなくならないことがまず問題。特に公営スキー場は『雇用の場』などと言われるが決断できないだけではないか」

 A氏の「さまざまな方法で温存され」というのは、指定管理制度による公有民営であっても結局は税金による資金補填がされていることを指すかと思われますが、そうしたところの多くはリフト数基の小規模なもので、産業としてよりも地元の人の体育・娯楽施設としての位置づけのものが多く、リゾートスキー場とは直接競合しないのではないかと思います。

 また、そうした設備更新のできない安値運営の小規模スキー場が税金補填で生き残っているから自身も安値運営になるというのであれば、そういったスキー場と差別化できていないということであり、それはスノーリゾート経営者としてどうかということにもなりかねません。

 B氏の発言に関しては、「決断できないだけではないか」は、もちろんそういった側面もあるでしょうが、直接的な雇用だけでなく、スキー場に頼るところの大きい関連産業への影響が大きく、少なくない人がそれに生計を頼っている中での廃止の決断は重いものです。スキー場がその地域のシンボル的な存在になっていて、廃止は地域住民の心理的抵抗が大きいということもあるでしょう。資本の論理だけで進められるものではないと思います。

 B氏は別のところで「かつて約900あったというスキー場は現在約370まで減少。しかもそのほとんどが苦しい経営状況にある」とも言っているのですが、そのとおりであればスキー人口に応じてスキー場数も減っている(スキー場数あたりのスキー人口は大きくは変わっていない)ことになります。

 実際のところは、ピーク時にチェアリフトのないロープトゥだけのスキー場も含めても900まではなかったと考えられます。ロープトゥだけのスキー場も含めれば現在も500以上になりますし、ロープトゥのみを含まないならピーク時も650に満たなかったものと推計されます。

 スキー場数については、公的調査では民間のものに関してが信憑性の低いものしかありませんが、学術調査による信憑性の高いデータもあります。B氏はそれなりに社会的信頼のある立場の人であり、データをしっかりと確認してほしいものです。

 A氏は「日本はバブル経済の時にスキー場を作りすぎたため供給過多になった。アメリカが同じように供給過多になった時はどんどんスキー場が潰れ最終的に半分になった。」とも言っていますが、スキーブーム時の異常な混雑からはあの時はあれでもまだ圧倒的に供給不足だったと思いますし、コロナ前くらいのスキー客数とスキー場数は適正水準なのではないかとも思います(観光庁の人からは「今の時代に合った数が残っているのではないか」という発言もありました)。自分のところが儲からないことを供給過多のせいに責任転嫁しているようにも聞こえます。

 アメリカの例は、弱肉強食を極めた資本主義下の競争による結果で、その結果としてリフト1日券価格が200~250ドル(現在の為替レートだと3~4万円)とものすごく高くなっています。巨大資本の囲い込みにより高付加価値・高価格のリゾートしか生き残っていないような印象で(実際はそうでもないのでしょうが)、日本がそこを目指すべきかは大いに疑問です。

 日本のスキー場はリフト2基以下が4割、3基以下だと5割を超えます。そのほとんどが赤字経営で税金による補填で営業を続けているものと思いますが、そうしたところと、外国からの富裕層や観光客を呼び込む外貨獲得の産業としてのスノーリゾート形成とは分けて考えるべきものかと思います。

 この20年の安値競争の原因は、税金補填によるローカルゲレンデのゾンビ化(の結果としての供給過多)よりも、リゾートゲレンデが差別化できずに安値競争に付き合ったこと、長期視点を持った設備投資や価格設定をできなかったことなど、単に経営の仕方がまずかったということではないかと思います。この何年かでリゾート経営のプロ化がようやく進みつつあり、そこはようやくまともな経営になるとも言えそうです。(その結果として、社会的なインフレとも相まっての大幅値上げになっているわけですが)

 税金補填で成り立っているローカルスキー場は、老朽化の限界(更新費用まで出せる自治体は少ないと思われます)や自治体が支えきれなくなることで、まだじわじわと減っていくと思います。一方で、外国人客誘致を目指すリゾートスキー場は高付加価値・高価格になっていき、二極化が進むことでしょう。

 20年後、設備更新をして営業を続けられているローカルスキー場がどれだけあるか分かりませんが、ローカルはローカルなりに生き残ってもらい、多様性が確保されたスキー環境が維持されてほしいと思います。