日本のインバウンド観光

 今でこそ観光産業、特にインバウンド(訪日外国人客)誘致は国を挙げて猛プッシュされるようになっていますが、これはつい最近になってからのことです。

 例えば、観光庁ができた(独立した省庁として格上げ・設置された)のは2008年で、それまでは国土交通省運輸省)の一部局に過ぎませんでした。2006年に観光基本法を改正する形で観光立国基本推進法が成立し、それを受けての省庁昇格です。

 観光基本法は1963年にできており、その頃から「国の観光に関する政策の目標」として「観光が国際収支の改善及び外国との経済文化の交流の促進に貢献することにかんがみ外国人観光旅客の来訪の促進のための施策を講ずることにより、国際観光の発展を図り、もつて国際親善の増進に寄与するものである」旨が定められていましたが、最初の東京オリンピックの前年であり訪日客促進も意気込みとして入れ込まれてはいるものの、意気込みだけだったと思います。

 もちろん、国際観光だけでなく国内観光についても述べられており、この時すでに観光が「地域格差の是正に資する」とも書かれていますが、やはり理念だけだったのではないでしょうか。

 国としての本格的な訪日外国人誘致強化は、2003年に小泉首相が観光立国を目指す構想を施政方針演説で発表してからです。当時年間約500万人に留まっていた訪日外国人を2010年に倍増の1000万人にして、日本からの海外旅行者年間約1600万人とのギャップを縮小させるというものです。製品輸出に代わる外貨獲得の手段としてということでしょうか。この施政方針を受ける形で同年にビジットジャパンキャンペーンが始まりました。

 その後の観光立国基本推進法の成立、観光庁の設置によって、2008年に訪日外国人数の数値目標が設定されます。2007年に835万人だったものを、2010年に1000万人(首相方針)、2020年に2000万人、2030年に3000万人にするというものです。

 施政方針演説から数値目標設定までの間も、2003年に521万人だった訪日外国人数が2007年には835万人になり、4年で1.6倍と大幅に増えています。ビジットジャパンキャンペーンや観光ビザの発給緩和なども始まっていますが、増加の8割近くは東アジア(韓国・台湾・中国・香港)で、その半分近くが韓国なので、東アジアの特に韓国の経済成長が主要因と思われます。(韓国ではその後反日が高まって2007年の訪日者数を超えるのは2014年になります)

 この目標に対しては、リーマンショック東日本大震災の影響で1000万人突破は2013年になったものの、そこから増加ペースが加速して、2015年に1974万人、2016年には4年前倒しで2000万人を超えて2404万人、2018年には12年前倒しで3000万人を突破することになります。

 この急増を受けて、2015年には「2020年に3000万人」に上方修正しますが、これも2年前倒しで達成したことになります。2016年には「2020年に4000万人、2030年に6000万人」と、2008年設定時の目標の2倍にまで大幅に、2年連続となる上方修正をします。

 2013年から2015年の2年間で1.9倍(+940万人)になっていることから、2015年からの5年で2倍(年当たり400万人増)というのは「チャレンジングだが可能」という設定だったのかもしれませんが、2018年の3119万人までは年400万人近いペースだったものの2018年から2019年にかけては+2%と増加率に急ブレーキがかかってその時点でもう「2020年に4000万」はほぼ赤信号でした。

 「爆買い」という言葉が頻繁に使われ定着したのが2014年から2015年にかけて、特に2015年2月の春節でということで、これは2014年10月の免税対象品の拡大(薬品・化粧品類等)、2015年1月の中国人個人観光客に対するビザ発行要件の緩和などが功を奏していると考えられますが、この時の一過性のブームに浮かれて高い目標を掲げ過ぎたようにも思います。

 「2030年に6000万人」は今も取り下げていませんが、3000万人でもオーバーツーリズム(観光公害)の問題が顕著になっていたことから、数値目標的には観光消費額の方をより重視するようになり、また、地方への分散に重点を置く政策に変化しています。

 スキー関連では、「スノーリゾート地域の活性化に向けた検討会」というのが訪日客爆増ピークの2015年に始まり、その後も形を変えて継続して、現在は「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」という名で、補助金を通じて地域経営の促進を図るべく実施されていますが、最初とは方向性が変わってきているような、本当は最初からこうしたかったのか…。