スキー未来会議 #2 -3

(前回から続く)

 ゼビオの諸橋氏は、バブル期以降のスキー産業市場の落ち込みについて、「かつてのスキーブームの時は、スキーを楽しむには非常にストレスになる事が多いにも関わらず「また来たい!」と思わせる価値提供ができていた時代だった。しかし、時代も変化し、消費者の価値観が多様化するなか、スキーを行うことで感じるストレス以上の更なる価値提供を消費者に提案できていない。スキー市場の今後は厳しいと言わざるを得ない。」と言っている。

 ブーム期に提供できていた「また来たいと思わせる価値」とは何だったのだろう。

 交通渋滞やリフト待ちやゲレンデや食堂の混雑が大きなストレスであっても、行くこと・することそれ自体が価値である状態だから「ブーム」と言われるのであって、スキー業界が積極的に何かの価値を提供していたわけではないのではないか。

 いや、もちろん、何もしていなかったわけではなかろう。快適度の向上(不快度の低減)のため、リフトを増設したり、高速リフトに架け替えたり、食堂やスキーセンターを新築したり改築したりしていただろう。爆発的に増えるスキー客に対してそうした設備投資が追いついていかなかっただけで。

 しかしそれを「また来たいと思わせる価値提供ができていた」と言われると、何かちょっと違和感がある。また来たいと思わせるほどの価値提供はできていなかったが、「ブーム」だからそれでも客は来ていた、という説明の方がしっくりくる。

 「ゼビオグループの13〜16年のスキー関連の売り上げも異常に落ち込んだが、メーカーもスキー場も小売業も、過去にしがみついたプロダクトアウト前提のマーケティングや商品開発を続け、新たな「コト提案」を怠ったツケだ。」とも言っている。

 売上の落ち込みがゼビオだけなのか業界全体なのか、「異常に」というのがどの程度でどう異常なのか、情報がなくて分からない。

 「過去にしがみついたプロダクトアウト前提のマーケティング」というのは、スキー場では何が該当するのだろう。「プロダクトアウト」とは、自らが売りたいと思うものを売ろうとする、ということだろうが、パークの充実やモーグルレーンの整備などで特色を出そうとするのはプロダクトアウト発想なのだろうか。そういう需要があるというマーケットイン発想の場合もあるのではないか。家族連れにターゲットを絞ってキッズパークを充実させたり保育サービスを始めたりはどうだろう。

 何やら「プロダクトアウト=悪」という論調なのも気になる。私としては「プロダクトアウトとマーケットインは一方が善でもう一方が悪というものではなく、潜在的なニーズにアプローチするか顕在化したニーズにアプローチするかの違い」という考え方に賛同する。

 ウィキペディアには、日本の電機業界凋落の要因として、スティーブ・ジョブスが「マーケットインへの過剰な傾倒」を挙げ、90年代の日本での「マーケットインこそが正しくプロダクトアウトは間違い」という考えは2010年代になって見直されている、と書かれているが、これはまさにそういう考えに基づいて書かれているのではないか。(続く)