(所感)スノーリゾートの活性化・形成

 スノーリゾートの活性化・形成に関する観光庁主催のこれまでの会議の様子を振り返ると、最初の「スノーリゾート地域の活性化に向けた検討会」では

「スノーリゾート地域の活性化のためには、リピーターの実施回数の増加、スキー人口の底辺拡大の他、新市場開拓(インバウンドのような新しい層を取り込む)も重要」

「連休のあり方について政府で検討いただきたい」

などの国内客振興向けの意見・要望も多く出ていました。

 しかしこれに続く「スノーリゾート地域の活性化推進会議」ではもうインバウンド誘致一辺倒のようになっており、「スノーリゾートの投資環境整備に関する検討会」を経て始まった補助金事業のタイトルは「国際競争力の高いスノーリゾート形成促進事業」です。

 このタイトルからも分かるように、今ではいかにインバウンド誘致の世界的競争を勝ち抜いていくかにフォーカスされるようになっています。

 その結果、資本の論理を前面に押し出した、欧米の成功事例をまねてのキャッチアップ傾向が強くなっているように感じます。

 最初の検討会での幅広い提言というのは「とりあえず現状調査して課題を洗い出した」というものであり、言い方を変えれば「的が絞られておらず総花的」とも言えます。

 そこに優先順位を付けて絞り込んでいくことは必要ですし良いことだと思いますが、「インバウンドが重要だからまずはインバウンドから」という意思決定プロセスが示されずになし崩し的に絞られているのは気に掛かります。

 観光業の原点が家族経営的な民宿であるのは日本に限ったことではないと思いますが、観光の産業化という点では50年以上も先行してそうなヨーロッパと比較すると、日本はまだその状況が根強いように思います。

 特に、富裕層が多く、中間層でも週単位での休暇が当たり前の欧米的なリゾート需要への対応は、国内にそういった状況がないことから供給数が少ないのは確かでしょう。

 そういった世界基準のリゾートのサービスレベル提供については、外資系高級ホテルチェーンの参入で強化されているためか、報告書では「日本らしい滞在を求める人に、独自の旅行目的像を造っていくことも課題」と挙げられていますが、「おもてなし」の本質は「個人の気遣い」であるかと思います。

 それは文化的な慣習を背景に個人レベルで身に付けられたものが多く、これを組織的に訓練する機関はほとんどないのではないでしょうか。観光地全体を自治体と企業と地元住民が一体となって運営していく体制の必要性や、そのための人材育成の必要性なども報告書で課題として挙げられていますが、それは現場の最前線でサービスを提供する人の育成システムという点でも同様と思われます。

 遅れているということは学ぶべき手本がたくさんあるということでもありますが、文化・歴史の異なる他国の先行事例がそのままあてはまるとも限りません。自国の特徴にあった仕組みを作っていかなければいけませんが、人材育成などは十年単位の長期取組が必要であり、そうした単年度の予算ではどうにもならない取り組みが日本でうまく進んでいくとはなかなか思えず、不安です。

 「国際競争力の高いスノーリゾート形成」はあくまで海外からの長期滞在客を想定したものです。産業政策としての国の支援が、大きな資本を要するが大きなリターンを見込める分野に重点的に配分されるのは仕方がないというか当然のことであるとも思います。

 しかし一方で、これまで「おもてなし」を支えてきた中小・零細(個人)事業者や、市場は縮小していくが比率としてはまだまだ大部分を占める国内客需要に対してどうしていくかがなおざりになっているように感じられるのは、非常に残念です。

 観光業の宿願は、観光業経営者の多くが口をそろえるように「需要の平準化」であるかと思います。これはスノーリゾートにとってはまずはグリーンシーズン強化ということになりますが、観光業全般での「需要の平準化」への最たる対策は「長期休暇の分散化」であるかと思います。

 しかしこれはもう社会(学校を含む)の休み方の慣行を根底から変えるにも等しく、国家のグランドデザインとして少子化対策並みの政策対応が必要なように思われ、だから一向に手つかずのままなのかと考えられます。

 優先順位として、まず今は「国際競争力の高いスノーリゾート形成」のために、地域一丸となっての取組を支援するというのは正しい方向性であると思いますが、対策はより困難でも、市場規模として大きく安定的である国内客向けの活性化についても、忘れずに取り組んでいってもらいたいと思います。